職長と安全衛生責任者の違いとは？現場に必要なダブルポジションを解説

現場の安全管理を担う「職長」と「安全衛生責任者」。この両者に求められる知識と責任は、作業現場の状況に応じて重なり合う部分が多く、兼務している場合がほとんどです。そのため、現在では一体型の「職長・安全衛生責任者教育講習」として講習が実施されています。

しかし、現場では「職長」と「安全衛生責任者」の違いや役割の線引きがあいまいになりがちです。そこで本記事では、両者の制度上の違いと現在の一体講習の内容を明確に解説し、現場における理解と実践に役立てていただけるようまとめました。

講習の受講を検討している方や、安全管理の現場で働く方はもちろん、これから土木・建設業界でのキャリアを目指す方にも参考になる内容です。ぜひ最後までご覧ください。

職長と安全衛生責任者は“役割は別・講習はセット”という関係

建設現場では、安全と作業を両立させるために、「職長」と「安全衛生責任者」という2つの立場が設けられています。
両者は一見似たように見えますが、実は役割が異なる別の存在です。

ただし、現在の制度では「職長・安全衛生責任者教育」として一体の講習として実施されるケースが多く、そのため「同じもの」と誤解されやすい状況にあります。

職長とは？現場の統括責任者としての役割

職長とは、作業チームや小集団のリーダーとして、日々の作業の段取りや人員配置、安全確認など、現場の実務を直接管理する立場です。具体的には次のような業務を担います。

作業手順の指示と作業工程の管理
チームメンバーの役割分担と教育
使用機材や資材の管理
安全確認や災害防止策の徹底
トラブル発生時の初期対応と報告

「現場のまとめ役」として、工程の遅れや事故が発生しないよう、チームの先頭に立って指揮をとるのが職長の本質です。

安全衛生責任者とは？労働安全を守る監督者

一方、安全衛生責任者は、事業者（企業）から選任される形で、労働災害防止や安全衛生活動の推進を担う役職です。現場作業を直接指揮するというよりも、「安全を守る仕組みづくり」や「衛生面の監督」が中心になります。主な業務は以下のとおりです。

安全衛生教育の計画・実施
作業環境の点検と改善提案
災害やヒヤリハットの記録と分析
健康診断・労働時間管理など労働衛生への配慮

こちらも法的に位置づけられた役割で、一定の規模以上の事業場や現場では、安全衛生責任者の選任が義務づけられています。職長と兼任されることも多いため、現場では「職長・安全衛生責任者講習」として1つのパッケージで実施されることが一般的です。

職長・安全衛生責任者講習の概要と受講の流れ

建設現場や製造現場などで、一定の危険有害業務に従事する作業を管理するためには、「職長・安全衛生責任者教育」と呼ばれる講習を修了しておく必要があります。この講習は、法令に基づく「特別教育」の一種であり、「資格」とは異なりますが、実務上は必須に近い存在です。

どのような講習なのか？

この講習は、労働安全衛生法第60条に基づき、事業者が職長または作業中の指揮・監督を行う立場の者に対して実施すべき教育と定められています。

講習では以下のような内容が扱われます。

作業手順の決定と現場指導
危険予知活動（KY活動）の実践
労働災害の原因と対策
作業者への安全衛生教育の進め方
コミュニケーションや指導の基本

職長と安全衛生責任者は、同一人物が兼任することも多いため、通常は一体型のカリキュラムで実施されます。講習の呼称も「職長・安全衛生責任者教育」として案内されることが一般的です。

受講の流れと所要時間

受講は、各都道府県の労働局が認可した教育機関で行われます。講習の所要時間は原則2日間（約12時間）で、カリキュラムが標準化されているため、どこで受講しても大きな差はありません。

受講までの一般的な流れは以下のとおりです。

会社または本人が講習機関へ申込み
日程・場所を確認し、当日参加
講義・演習形式での学習（2日間）
修了証の交付

修了証は現場で「教育済み証明」として使われるため、提示が求められる場面もあります。管理職や将来的に職長を目指す人にとっては、早めに取得しておくことが望ましい講習です。

現場での連携が求められる3つの理由

職長と安全衛生責任者は、役割こそ異なるものの、建設現場の安全と効率を両立させるためには密接な連携が不可欠です。それぞれの立場がうまく連動してこそ、労災リスクを低減し、作業の質を高めることができます。ここでは、なぜ両者の連携が重要なのかを3つの理由に分けて解説します。

1. 安全方針の現場浸透にはダブル体制が不可欠

安全衛生責任者が策定する「安全管理方針」や「衛生管理計画」は、トップダウン型で全体に伝えることが多いですが、実際にそれを現場で実行するのは職長です。

たとえば、「作業前KY（危険予知）活動の徹底」や「熱中症対策の強化」など、安全衛生責任者が主導して決めた方針も、職長が現場の作業員に周知し、ルールとして根付かせなければ意味がありません。

そのため、安全衛生責任者と職長の間で綿密な意思疎通が図られているかどうかが、方針の実効性を左右します。

2. 災害発生時の対応力が高まる

万が一、現場で事故や災害が発生した場合、即時に適切な対応が求められます。その際、現場を直接指揮する職長と、事業場全体の安全体制を統括する安全衛生責任者が連携して動くことで、二次災害の防止や迅速な報告・再発防止策の立案が可能となります。

特に、初動対応（救護・避難誘導・現場確保）においては職長の判断が重要であり、事後対応（原因調査・是正措置）では安全衛生責任者の役割が大きくなります。お互いの役割を理解した連携が、災害対応力の向上につながります。

3. コンプライアンス遵守と記録管理の強化につながる

昨今、建設業界においても法令遵守（コンプライアンス）がより厳格に求められるようになっています。特に、安全衛生に関する記録管理や報告義務は、職長と安全衛生責任者の双方が関与すべき分野です。

たとえば以下のようなケースでは、連携によって記録の正確性と対応の整合性が担保されます

労災発生のヒヤリハット報告
安全パトロール結果の共有
作業手順書・KY活動の記録保存

このように、職長と安全衛生責任者が相互に情報を補完することで、法的リスクを未然に防ぐことが可能になります。

安全な現場づくりに向けた両者の役割の活かし方

建設現場では、職長と安全衛生責任者の両方が、安全管理において欠かせない存在です。

この2つの立場は前述の通り「講習がセットで実施されている」ことから混同されがちですが、本来は役割も制度上の位置づけも異なるものです。

1. 役割分担の明確化と相互理解

まず重要なのは、職長と安全衛生責任者それぞれが自分の役割と相手の役割を正確に理解することです。
たとえば、

職長は「現場の作業指揮」「作業手順の確認」「危険箇所の監視」など、現場密着型のリーダー
安全衛生責任者は「安全衛生計画の策定」「定期点検・パトロール」「労働者教育」などマネジメント視点のリーダー

この違いをお互いに理解することで、責任の境界があいまいにならず、トラブルの回避や情報伝達の正確性が向上します。

2. 定期的な情報共有と安全会議の実施

現場では、状況が日々変化します。職長から上がる「現場の生の声」を、安全衛生責任者が計画や教育にフィードバックするサイクルを作ることで、実効性のある安全対策が構築されます。

具体的には、

毎朝のミーティングで危険ポイントの共有
週1回の安全衛生会議で課題と対策を整理
月次の記録レビューで振り返りと改善点の確認

こうした小さな積み重ねが、現場の意識レベルを底上げする鍵となります。

3. 双方がリーダーシップを発揮する体制づくり

建設現場の安全管理は、「誰か一人のリーダー」では成り立ちません。現場に最も近い位置で作業者を直接指導・統率するのが「職長」、現場全体の安全方針や教育体制を整えるのが「安全衛生責任者」です。役割自体は制度上も現場実務上も明確に異なりますが、目指すゴールは共通して「安全な現場づくり」です。だからこそ、両者が現場の「二大リーダー」として、それぞれの視点からリーダーシップを発揮し合う体制づくりが求められます。